助演俳優

 

 

今日のデートの為に、新しいワンピースを下ろした。それは薄っすらと桃色の、ノーカラーのシンプルなワンピースで、コロンとした丸いボタンで前を留めていた。秋の匂いがし始めたら、下ろそうと決めていたので、今日は大変ちょうど良い。待ち合わせより少し早く着いたときの高揚は、何とも言い表せない。気恥ずかしさと、期待と、少しの淋しさ。大きく息を吸ってゆっくりと吐き出したときに、彼の姿が見えた。

「待たせてごめんなさい。」

丁寧に謝る彼は、少し息が上がっていた。フワフワした黒髪が日に透けて綺麗だ。白いシャツも、似合っている。石けんの匂いがよく似合う人だ、とも思った。

 

それでは行こうか、と私たちはたわいもないありふれたデートを楽しんだ。

ありきたりなきな臭いラブロマンスの映画を選んで、私の右手と彼の左手の指を絡ませながら見た。左腕で彼が買い与えてくれたバケツポップコーンを抱えていたら、これでは食べづらいね、と彼ははにかんだ。

 

彼は、エンドロールを見ながら目を潤ませた私に暗闇に紛れてそっとキスをした。きっと一瞬だった筈であるが、私には長く、長く感じられた。

 

映画の後には遅めの昼食(早めの夕食かもしれない)を摂りながら、映画の感想をあれやこれやと話し合って、お互いの近況なども話した。彼は私のくだらない話によく笑い、目をじっと見つめて聞いてくれる。それが、とても気持ちよかった。

 

少し道端を散歩した後、ホテルに入った。照れ臭くて余所余所しく早足で、入った。

 

私たちは、やっぱり、ありふれた恋人たちのそれを楽しんだ。特にアブノーマルと言う訳でもなく、かと言って刺激的な、ものを貪りあって溺れた。

 

服を着ながら、彼は煙草に火をつけてベッドのヘリに座り、長く煙を吐いた後、君に会えてよかったと言った。

 

私はただ、その光景を綺麗だ、と思いながら見ていた。

 

 

別れ際、駅まで送ってくれた彼は、私の2時間かかる帰路を心配して大量にお菓子を買ってくれた。

 

電車が来る。改札に入る前、私も先ほど彼が言ったことと同じことを言った。

 

 

 

改札を超えたら、また、婚約者だけを見て婚約者しか知らずに生きてゆく私に戻る。

 

スマートフォンに入った出会い系アプリをアンインストールして少し泣いた。

 

金木犀の香りがする。